館長ブログ「館話本題」
館話本題⁑42 『沖縄から琉球へ』
館話本題とは・・・護佐丸歴史資料図書館の館長が日々つれづれを呟くブログコーナーです。図書館での日々、読んだ本のこと、中城村のことを毎週土曜日語っています。
館話本題 四三
中城村ではすでに『中城村史」』を完結させ、その中に「戦争編」をまとめているが、その後、新たな資料が見つかったり、収録されなかった事実や記録等の発掘を求める声が寄せられたりして、より充実した沖縄戦の記録を残そうということになり、現在編集作業をおこなっている。
その作業は当館の業務ではないが、編集メンバー(生涯学習課文化係戦争班)が同じ事務所内にいるため、ときどき進捗状況や沖縄戦に関する資料について話を聞くことがある。
終戦直後の住民の生活や政治状況について以前から関心はあるが、意識的に調べたことはなかった。
この戦争班の話を聞いていて戦後初期の状況がなんとなく気になって、本棚で目に留まったのが仲宗根源和著の『沖縄から琉球へ』である。初版は1955年、私の本棚にあるのは73年の再版本である。
同書は「米軍政混乱期の政治事件史」というサブタイトルが付いているように、米軍の沖縄本島上陸の頃から1950年代にいたる、住民と米軍の動向が描かれている。とくに北部における避難民や収容所での生活の様子、米軍との折衝など、直接かかわっていた者しか記述できないような貴重な内容が盛り込まれている。
もともとは新聞社の要請を受け、52年4月から90回余にわたって連載したもので、「大戦争のあとの大混乱、大混沌の中から如何にして秩序が生れ、如何にして平和が生じて来たか」を記すことが著者自身の責務と感じて、書いたと語っている。
著者の仲宗根源和は本部町出身で、戦前の沖縄師範学校を卒業後、教師や出版業等に従事したほか、県会議員も務めている。戦後は米軍政府の諮問機関・沖縄諮詢会の社会事業部長として活躍した。
また、戦後初の政党・沖縄民主同盟を結成している。
本のタイトルになっている“沖縄から琉球へ”という文言は、日本と米国の間で翻弄された戦後沖縄の歴史を象徴的に表現するものであろうし、表紙カバーに「まぼろしの琉球国旗」の図柄を使用していることは、沖縄の主体性・自立性の精神を訴えているのであろう。これらによって、著者の思想的背景を読み取ることもできる。
戦後初期、日本から切り離された沖縄では、その帰属が議論された。
日本に復帰するのか、それとも自主・自立の道をめざすのかということである。当時は、日本と沖縄は「親子の関係」だとして「祖国」に帰ることを唱えるのが大きなうねりになっており、こうした中で、著者の仲宗根源和は「ヒステリックに復帰を唱える」ことに対してはかなり批判的だった。したがって、そのような大きなうねりのなかで仲宗根源和は「独立論者」とか「親米派」とか評され、ほとんど受け入れられなかった。ただし、仲宗根自身は「向米一辺倒にも向日一辺倒にも反対」と書いている。沖縄の自主・自立、アイデンティティが問題となる中で、気になる人物の一人である。
館話本題 四三
『沖縄から琉球へ』
(仲宗根源和、月刊沖縄社1973.5.)
(仲宗根源和、月刊沖縄社1973.5.)
中城村ではすでに『中城村史」』を完結させ、その中に「戦争編」をまとめているが、その後、新たな資料が見つかったり、収録されなかった事実や記録等の発掘を求める声が寄せられたりして、より充実した沖縄戦の記録を残そうということになり、現在編集作業をおこなっている。
その作業は当館の業務ではないが、編集メンバー(生涯学習課文化係戦争班)が同じ事務所内にいるため、ときどき進捗状況や沖縄戦に関する資料について話を聞くことがある。
終戦直後の住民の生活や政治状況について以前から関心はあるが、意識的に調べたことはなかった。
この戦争班の話を聞いていて戦後初期の状況がなんとなく気になって、本棚で目に留まったのが仲宗根源和著の『沖縄から琉球へ』である。初版は1955年、私の本棚にあるのは73年の再版本である。
同書は「米軍政混乱期の政治事件史」というサブタイトルが付いているように、米軍の沖縄本島上陸の頃から1950年代にいたる、住民と米軍の動向が描かれている。とくに北部における避難民や収容所での生活の様子、米軍との折衝など、直接かかわっていた者しか記述できないような貴重な内容が盛り込まれている。
もともとは新聞社の要請を受け、52年4月から90回余にわたって連載したもので、「大戦争のあとの大混乱、大混沌の中から如何にして秩序が生れ、如何にして平和が生じて来たか」を記すことが著者自身の責務と感じて、書いたと語っている。
著者の仲宗根源和は本部町出身で、戦前の沖縄師範学校を卒業後、教師や出版業等に従事したほか、県会議員も務めている。戦後は米軍政府の諮問機関・沖縄諮詢会の社会事業部長として活躍した。
また、戦後初の政党・沖縄民主同盟を結成している。
本のタイトルになっている“沖縄から琉球へ”という文言は、日本と米国の間で翻弄された戦後沖縄の歴史を象徴的に表現するものであろうし、表紙カバーに「まぼろしの琉球国旗」の図柄を使用していることは、沖縄の主体性・自立性の精神を訴えているのであろう。これらによって、著者の思想的背景を読み取ることもできる。
戦後初期、日本から切り離された沖縄では、その帰属が議論された。
日本に復帰するのか、それとも自主・自立の道をめざすのかということである。当時は、日本と沖縄は「親子の関係」だとして「祖国」に帰ることを唱えるのが大きなうねりになっており、こうした中で、著者の仲宗根源和は「ヒステリックに復帰を唱える」ことに対してはかなり批判的だった。したがって、そのような大きなうねりのなかで仲宗根源和は「独立論者」とか「親米派」とか評され、ほとんど受け入れられなかった。ただし、仲宗根自身は「向米一辺倒にも向日一辺倒にも反対」と書いている。沖縄の自主・自立、アイデンティティが問題となる中で、気になる人物の一人である。
ブログ文責:村吉館長