続・館長ブログ「吉の浦だより」
2024年4月10日13:05.
海岸に着いた時、潮はかなり沖側に引いていました。魚垣(カチ)の上部が干出しているのが見えます。マリンシューズに履き替え作業ズボンの裾をまくって、まず北側の魚垣(泊安里のカチ)を目指します。ジャブジャブと浅瀬を歩くと、海水の温さが心地よく、日差しもまだそれほど強くありません。
魚垣は浅い海に「V」の字型に石を積んでつくる「魚トラップ」で、「V」の尖った方を沖側に、開いた方を陸側に向けて設置します。言葉で説明しようとすると難しくなりますが、航空写真なら一目瞭然ですね。潮が引いて魚が石積みを越えられない状況になった時、2列の石積みの間にいる魚を沖側の「袋」(どん詰まり)に追い込んで捕らえるのです。この辺りには7つの魚垣があり、戦前まで使われていたとのこと。いくつかの魚垣については名称も分かっていて、今回訪れたのは「泊安里のカチ」と「伊舎堂安里のカチ」です(中城村教育委員会,2022)。
「泊安里のカチ」(中央の「V」字型石積み).Google Earthの写真より.
「泊安里のカチ」の先端付近.
「泊安里のカチ」に着きました。魚垣の高さは50㎝位でしょうか。かなり潮が引く日でないと魚が石積みの上を越してしまいそうです。肝心の魚ですが、石積みの間を自由に出入りするルリスズメダイの他はあまり見ることができませんでした。唯一の例外は魚垣の真ん中あたりで見た体長20㎝位の黒っぽい魚ですが、近づこうとしたら石積みのところで方向転換し「袋」と反対の方向へ泳ぎ去ってしまいました。かなりの速さだったので種類は分かりません。魚を追い込むにはある程度の人数が必要そうです。
パリカメノコキクメイシ.
石積みの上のサンゴが干出しています。サンゴは陸上では生きていけないものですが、種類によっては年何回かの干潮で数時間干出するようなところに生育しているものが居ます。パリカメノコキクメイシはサンゴの中でも最も浅い海底にいますので、他のサンゴより高温や干出に強いのだと思います。
ルリスズメダイ.
ルリスズメダイは互いに追いかけっこしています。と言っても遊んでいる訳ではなく、雄が自分の縄張りを守ろうとしているのです。雄の近くに居て攻撃されていない個体は雌だと思います。
ヒメシャコガイ.
魚垣よりも岸側の完全に干上がっている場所でヒメシャコガイを見ました。岩に包まれていますが、この貝は成長に応じて岩を削り自らこの様な状況になっているのです。こうなると最早移動できませんね。
ヒメシャコガイの外套膜.
ヒメシャコガイに限らず、シャコガイ類は外套膜に共生藻を住まわせており、共生藻から光合成産物を得ています。なので、どのシャコガイ類も外套膜が日光に当たるよう貝殻のひらいた部分が上を向くように固着しています。ちなみに、より南方に住むオオシャコガイは大型で体重が200㎏を超える個体もあります。これに「ダイバーが足を挟まれて溺れ死ぬ」というお話がありますが、具体的な報告例は見当たりません。殻を閉じるスピードがそれほど速くないこともあり、「殺人貝」のウワサは濡れ衣に過ぎないようです(ナショナルジオグラフィックHP「動物大図鑑(オオシャコガイ)」)。
無数の「砂団子」.
さらに岸に近づくと砂地に直径5mmぐらいの「砂団子」が沢山見えてきました。「砂団子」はカニが砂を口に持っていき、その表面についている有機物を食べた後、まとめて捨てたものです。どこかにカニがいるに違いありません。しかも多数!
ミナミコメツキガニの集団.
砂団子帯の端にミナミコメツキガニの集団が居ました。セッセと餌をとりながら(砂団子を落としながら)移動中です。泡瀬干潟のミナミコメツキガニが有名ですが、中城村にもいるんですね。
ミナミコメツキガニの青色個体と黒色個体.
ミナミコメツキガニは黒っぽい個体が殆んどですが、中に青色の個体が混じっています。西表島での研究によると、10月から青色個体が現れ12月~2月の繁殖期には殆どの個体が青色になるそうです。繁殖期が終わった後、黒色に戻るとのこと(Jinno et al., 2020)。なお、体色を変えるには脱皮が必要です。カメレオンの様にはいきません。西表では、4月にはいると青色個体は見られないそうですが、沖縄島では繁殖期にズレがあるのかも知れません。
タマシキゴカイの卵塊.
さらに岸側に移動すると、風船のような形をしたゼリー状の物体がありました。一旦気が付くとあちらにもこちらにも。ずいぶん沢山あります。
タマシキゴカイの卵塊と「砂団子」
これはタマシキゴカイという環形動物の卵塊だそうです。タマシキゴカイは砂泥底にU字型のトンネルを掘って住んでいます。つまり出入口は2つ。卵塊は小さな穴から出ていますので、そのどちらかなのでしょう。
タマシキゴカイ(Arenicola marina). 2008 Auguste Le Roux.
中城村の海岸にも、よく見るといろいろな生き物がいて面白いですね。
【引用文献】
Jinno, M., Doi, W., Mizutani, A., Khono, H. 2020. Seasonal changes in body color of Mictyris guinotae (Brachyura: Mictyridae). Crustacean Research 49: 133-140.
中城村教育委員会生涯学習課編.2022.戦前の中城.503pp.
ナショナルジオグラフィック. 動物大図鑑(オオシャコガイ).(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/429096/ 2024年4月18日参照).
(文責:濱口寿夫)